災害時にクラウドは無力か?現役CEが考える透析医療DXのリアル

Glowing ai chip on a circuit board. 医療DX・アプリ開発

 透析室の現場で日々の業務に追われながらiPad miniでコードを叩いていると、常に立ちはだかるのが「電子カルテ」という巨大な壁です。

 病院のシステムが外部から完全に閉鎖された「機密情報要塞」であることは、患者の個人情報を守る上で最も安全であり、ある意味で「仕方ない」側面があるのは事実です。しかし、この堅牢すぎる要塞を維持することと、深刻な人員不足による現場の負担軽減とを天秤にかけたとき、そのバランスは非常に不透明だと感じています。

 また、医療DXの文脈でよく耳にする「クラウドにデータを置いておけば災害時でも安心」という盲信。私はこれにずっと疑問を抱いていました。地震などの大規模災害で物理的なネットワーク網が死んでしまえば、クラウドなんてアクセスできない無用の長物になるのではないか、と。

 今回、こうした現場でのモヤモヤをAI(NotebookLM)にぶつけてみたところ、非常に的確でハッとさせられる回答が返ってきました。今回はその内容をシェアしつつ、一人の現役CEとしての視点からこれからの透析医療DXについて考察してみます。

閉鎖的システム(要塞)の限界とDXの必然性

 まず大前提として、現在の閉鎖的なシステムや紙ベースのアナログ業務(カルテや問診票、処方箋などの処理)は、ただでさえ不足している医療スタッフの時間と手間を過剰に奪い、業務効率を著しく悪化させています。

  • これらをデジタル化・自動化することで、医療スタッフを単純作業から解放することが急務となっています。
  • その結果として、「患者への直接的なケア」や「高度な判断が求められる業務」に集中できる環境を整備することが求められています。
  • また、蓄積された多種多様な医療データをAI等で分析し、患者一人ひとりに合わせた「個別化医療(プレシジョン・メディシン)」を可能にするなど、医療の質を向上させるためにもDXは不可避です。
  • さらに、COVID-19のようなパンデミックにおいて、感染状況や患者データの共有へ迅速に対応する体制の構築が不可欠であることも浮き彫りになりました。

 要するに、要塞に閉じこもっているだけでは「スタッフの過労による医療崩壊」や「最新のAI解析などによる治療の最適化の遅れ」といった別の致命的なリスクを抱えることになるのです。

「クラウド=災害に強い」の盲点と真の価値

 私が最も懸念していた「ネットワーク損害によるアクセス不能」問題。これこそがクラウド最大の弱点です。しかし、BCP(事業継続計画)の観点から見ると、クラウドの真の価値は別のところにありました。

 災害時におけるクラウドの安心の定義とは、「いつでもどこからでも必ずアクセスできる(可用性)」こと以上に、「病院が物理的に破壊されても、データそのものが永遠に失われない(データ保全)」点に重きが置かれているのです。

  • 院内のサーバーや紙カルテは、地震による倒壊や津波、火災などで消失すると二度と復元できません。
  • しかし、遠隔地の堅牢なデータセンターにあるクラウドを利用すれば、病院の建物が全壊してもデータ自体は無傷で生き残ります。
  • 被災地のネットワークがダウンしていても、患者がネットワークの生きている別の地域・施設へ避難できれば、避難先の病院から直ちにその患者の過去のカルテや透析条件にアクセスし、安全に治療を再開できます。

 ネットワーク遮断時の現場の対応としては、AppSheetなどのノーコードアプリが備える「インターネット環境がなくてもアプリを利用でき、ネット接続後にデータを同期可能」なオフライン機能を利用し、最低限の業務を継続する工夫も紹介されていました。私がiPad miniで組んでいるサーバーレス環境でも、こうしたローカルキャッシュ的な動作は今後さらに意識していく必要があると痛感しました。

電子カルテの牙城を崩す鍵は「標準化」

 データがクラウドで生き残ったとしても、受け入れ先の病院のシステム(メーカー)が違えばデータは読めません。この「施設間連携」の壁を突破するために現在進められているのが、システム間の「データの標準化」です。

  • 透析医療は継続的な治療が必要であり、災害時などに絶対に治療を止めることができません。
  • そのため、異なるシステム間でも確実かつ迅速に情報交換ができるよう、「透析情報標準規格 HL7 FHIR 記述仕様」が策定されました。
  • この仕様は、避難先の受け入れ側施設で医師が直ちに必要とする情報が整理されています。
  • 具体的には、「医療施設情報」「患者情報」「診療情報」「透析条件」の4つのセクションから構成されています。
  • さらに、薬剤禁忌や処方歴など、転院時(避難時)に有したい情報についても必要に応じて拡張できるよう設計されています。

 クラウドへの「データ保全」と、この「標準化(共通言語)」がセットになって初めて、全国どこの施設からでも透析を再開できる真の災害対策が完成するわけですね。

まとめ:現場から始める現実的な医療DX

 電子カルテという強固な牙城を、私たち現場のスタッフがすぐに崩すことはできません。業界全体を見渡しても、まだまだこの領域のDX化は停滞しているように見えます。

 だからといって思考停止して紙を使い続けるのではなく、現在の医療DXが目指す「必要な情報を、必要な時に、安全に外とつなぐ」仕組み を理解した上で、自分たちにできることを進めることが重要です。

 私はこれからも愛機のiPad miniを片手に、自分たちの手の届く範囲でのペーパーレス化や、オフライン環境も考慮した軽量なアプリ開発、そして業務負担を1%でも減らすためのワークフロー構築を泥臭く続けていこうと思います。要塞の鍵が完全に開くその日まで、現場レベルでのハックを止めるつもりはありません。

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